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桜田刑事は正義を貫き通す
桜田刑事は正義を貫き通す
Auteur: 景文日向

第一話 調査ミス?

Auteur: 景文日向
last update Date de publication: 2025-10-24 21:10:11

 どうにも奇妙な事件だ。それが俺の、一番最初の印象だった。

 法務省官僚の遺体。握りしめた手には、犯人のものであるはずの衣類の欠片。

 犯人の特定は容易だった。証拠は衣類の他にも、携帯の通話履歴など一式揃っていたから。正直、捜査する必要は大してなかった。

 犯人の名前は、永田霞。二十四歳の法科大学院生。どうして彼が犯罪を起こすのに至ったのかわからなかったが、奇妙なのはここからだ。

「永田霞が無実?」

「調査ミスがあったらしい」

 それなりに長い年数、警視庁で刑事をやっているとわかる。相手の言葉の何が本当で、何が嘘なのか。そして、これは間違いなく嘘だった。上司は俺に何か隠している。証拠こそないが、明白だった。

「桜田くん、わかっているとは思うが……この件にはこれ以上深入りしないように」

「承知しました」

 言葉だけ従うことにしたが、やはり納得はいかない。証拠は揃っていた。調査ミスなんて、しようがない。裏があるのは明白だった。だからこそ、何がなんでも真実を暴きたい。永田霞が無罪なわけ、ないのだから。

 だが、上から言われてしまってはこれ以上捜査が出来ない。俺の階級は警部補。強硬手段をとれない。

 ……表では。

 逆に言えば、裏からは捜査がまだ出来る。しかし、それは奥の手すぎるので極力使いたくない。裏の世界との繋がりなんて、ないに越したことはない。しかし、俺は裏に精通している人物をよく知っている。

 新川虎太郎、二十八歳の弁護士。過去に冤罪事件で対立して、今でも仲が良いとは言えない。しかも、彼には黒い噂がある。裏社会に通じているのだとか、情報屋から情報を買っているだとか。それが本当なのであれば、逮捕案件なのだが……肝心の証拠は抹消されていて踏み切れない。俺の勘では、確実に黒なのだ。それでも、証拠がないのに逮捕することは出来ない。しかも、そいつに今から俺が頼ろうとしているのも情けない。

 だが、永田霞の件は気になる。だから、俺は新川を居酒屋に呼び出した。

「桜田サンが、俺に用事なんて珍しいじゃん」

 十九時半、仕事終わり。スーツ姿の新川は開口一番がそれだった。いつも整っている顔立ちは、居酒屋で女性の目を奪うだろう。こいつ、その場にいるだけで目立つタイプだからな。本人がそれに無頓着なのが、尚更腹が立つというか。

「お前にしか頼めないことがある」

 あまりこいつと関わっているところを見られたくない。手短に用件を話そう。

「実は、釈放された被疑者を調べている」

「そうかよ」

 新川の興味は引けない。俺の話術で、こいつは興味を持つのだろうか。

「実はそれが奇妙でな」

 俺は、永田霞の話を聞かせた。守秘義務に反するが、どうせ調査は打ち切られている。問題になっても、俺の意思は堅い。どうせ打ち切られるなら、もう少し探りを入れたいところだ。

 話し終えると、新川は少し黙っていた。そして、ビールを口に運び飲み干した。

「なるほどな。つまり、俺を使って調査したいのか」

 聡明な新川のことだ、話が早い。

「けどま、俺を使うってことは……わかってんだろうな」

「覚悟はしてる。今回は、お前だけが頼りだ」

 これがどういうことなのか、わからないほどお互い馬鹿ではない。新川の鋭い目が、俺を突き刺す。

「正義、と名前のつくお前がね……高くつくぞ」

 人の名前で遊ぶなよ。その名前、気にしてるんだから。正義、なんて不釣り合いな名前なのはわかっている。

 裏社会のルートなんて、高くて当然だ。それでも、今回はこいつだけが頼り。機嫌を損ねては、永田霞を逃してしまう。

「うるさい。……わかってる、いくらだ」

「それは……情報の内容と難易度、次第だな。また連絡する」

 用件以外で、こいつと飲む趣味はない。どこまでも相入れない男だ。深入りすればするほど、こちらが呑まれてしまうような。そんな気がする。

「用はそれだけか?」

 飲食代を置いて、席を立つ新川。もう、引き留めて話すこともない。そもそも、依頼を引き受けるとこいつは言っていない。全て、まだ動いていないのだ。

「ああ。じゃ、頼んだ」

 新川は、返事をせずこの場を去っていった。1人残された俺も、サワーを一気飲みし居酒屋を後にした。普段より、味がしない酒だった。

 それにしても、どうしたものか。酒のせいか思考がまとまらないので、今は家に帰るべきだろう。

 警視庁から程近いマンションに帰ると、一気に体の力が抜けた。自分の家というだけで、安心する。

 新川の連絡が来るまで、出来ることはない。シャワーにでも入って、寝よう。

 

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     永田霞を見逃す。犯罪を見逃す、ということだ。 新川も、侑も、律花も、霞も俺を見ている。つまり、最終決定権があるのは俺だ。 ここで見逃さなければ、千代とは永久に会えないかもしれない。教え子を俺が逮捕した、なんて知れたら。 それでも、隼や円香のように俺の正義を信じてくれる人もいる。どちらをとればいい。多分、どちらをとっても後悔する。 それなら。「駄目だ。永田霞、罪は償う必要がある。どんな理由であっても、だ」 真っすぐ目を見つめる。もう、逃げない。「君は、君の中では正しいことをした。だが、社会はルールだ。法を犯したのなら、償う必要があるんだよ。日比谷家の問題まで、君が背負う必要はない」 霞の表情は変わらない。「俺も支える。一緒に、警察に行こう」 立ち上がり、手を差し出す。この手をとってくれたなら、霞と俺は対等に話せる気がする。 彼は動かない。この場の誰もが、霞を見ている。また、長い時間が流れた。 霞が動いた。立ち上がり、俺の手を取る。「……最後に一言だけ」 律花と侑の方を向き、涙を浮かべこう述べた。「義姉さん、お幸せに」 そして、こちらに振り返る。もう、涙は拭われていた。「行きましょうか」 全員がばらけた。霞を警察に連れて行くのも、俺の仕事らしい。 メッセージで連絡を入れていたからか、隼が待ってくれたいた。「桜田警部補、お疲れ様です。して……彼は?」 忘れっぽい隼は、霞の容貌と不起訴事件の詳細がリンクしなかったらしい。時々、刑事として心配になる。「永田霞。笹川明弘が殺された事件の──」「彼は、僕が殺しました」 隼は、目を見開く。そして、ゆっくりと永田霞を引き取った。そこに言葉はない。最後の一言だけだった。「……死なないでいてくれたんですね、桜田警部補」 その後の記憶は、曖昧だ。極度の緊張感から解放され、隼が代行してくれていた仕事の引き継ぎもあり。瞬く間に時間が過ぎていった。気がつけば、季節も変わっている。  新川は、相変わらず裏社会と取引しているらしい。近況を詳しくは知らないが。 事件が終わってしまっては、新川と話すことなどない。元気でいるなら、それでいい。 侑は、家の説得に苦労しているようだ。本人から聞いたわけではなく、円香からの伝聞。 律花を伴侶にするという覚悟は、昔からあったらしい。こういうところで、

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  • 桜田刑事は正義を貫き通す   第十九話 律花

     言葉が出なかった。篠崎律花と話す。侑が、それを認めた? それがどれほど重い事なのか、わからない訳ではない。混乱しながらも、話は進む。「三日後、このカフェに彼女を連れてきます。それでいいですか?」「わかった。新川は?」 彼を見ると、不敵な笑みを浮かべている。「俺も大丈夫」 その一言の後、頷き合って解散になった。飲食代は、侑の奢りだった。せめてもの罪滅ぼし、だろうか。 仕事を終え家に着く頃には、疲れが噴き出しきっていた。シャワーを浴びていても、寝る前でも、律花の正体についてばかり考えている。どんな人柄で職業なのか、想像がつかない。三日間はそうして過ぎていった。 そして当日。例のカフェに、侑と律花であろう人はやって来た。「侑さんから、お話は聞きましたわ」 そう言いお辞儀する律花。確かに、育ちは良いのだろう。艶やかな黒髪、紺のドレス。円香が可愛いなら、律花は美人。侑の美貌と並んでも、遜色がない。美男美女とはこういうやつらのことを指すのだろう。「桜田正義です。よろしくお願いします」 こちらも礼をし返しておく。律花に舐められたら終わりだ。新川の自己紹介は適当だったが、それが彼らしさだろう。侑は睨んでいたが。「それで、お父様について。でしたわね」 いきなり本題だ。律花の表情は変わらない。こちらも、表情を固める。「確認事項からいきましょう。私の父、篠崎正臣法務大臣。永田霞さんは、私の弟のような存在。まあ、私はもう家を出る予定なのですが……余計な話をしてしまいましたわね。とりあえず、ここまではいいですか?」 全員頷く。律花はそれを見て、話を進める。「お父様は、霞さんのことを気にかけていません」 場が凍った。新川でさえ話さない。気にかけていないのに、事件をもみ消そうとしている?「お父様は、自分の名誉の失墜を恐れているのですわ。侑さんが認められているのも、平たく言えば家柄が大きいですわね。とにかく、バレたら社会的に危ない。だから葬る。それだけですの」 まだ全員黙ったままだ。律花はまだ話す。「霞さんがどのような環境で育ったか、私は知り得ませんが……きっと、お父様の名誉を壊すためにあのようなことをしたのです。霞さんに聞かないと、本当のところはわかりませんけれど」「永田霞は、どこにいる?」 ここで、新川が口を挟んだ。確かに、律花なら知りえる。

  • 桜田刑事は正義を貫き通す   第十八話 納得

     いつものカフェで、侑と俺たちは向かい合っていた。「では、ご提示ください。律花は事件と、どう関係があるんです?」 そこに翳りはない。あるのは、絶対の自信だ。 一方の俺は、新川がいるとはいえそんなものは持てない。侑を崩そうという意志だけだった。「篠崎律花さんは、事件に関係はない」 まずは、そこを断言する。新川と決めたことだ。事実は歪曲しない。その上で、侑を揺さぶる。「はい、知っています」 侑は淡々と受け流す。だが、本題はここからだ。「だが、篠崎律花さんは永田霞の腹違いの姉。違うか?」「違いませんよ。ですが、それがどうしたと言うのです?」 まだ崩れない。それは、想定していた。「日比谷、お前勘が鈍ったのか? 検事のクセによ」「……事実確認があります。だから、先を促しただけですが」 新川の軽口は、多分効いている。今、この波に乗るのが最善だろうな。「篠崎律花さんの弟が永田霞なら、日比谷検事。霞は、貴方の義理の弟のようなものだ」「名目上はそうですね」 まだかわす侑に、とどめを刺す。「永田霞に、私情がないと証明できるか?」 完璧な静寂だった。侑が目を逸らす。新川は何も言わない。場を支配しているのは、沈黙だ。「……」 侑は、何かを考えているようだった。普段なら即答するのに、この場では出来ない。 私情がある。そう言っているようなものだった。 長い時間が経った。いや、実際には十分も経っていなかっただろうが──侑が口を開いた。「人の心情は、本人であったとしても証明できません」 冷めてきた紅茶を飲み、先を話す。「僕が永田霞に情がない、と言えばそれは嘘になります。事件から人を遠ざけたかったのも本当です。ですが、それは永田霞を守るためじゃない。彼を守るのであれば、遠ざけるのではなく隠蔽の方角に持っていく方が最善なので」 確かに、それはそうだ。最初から隠蔽に持っていく方が、回りくどさもない。だとしたらこいつ、何がした

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  • 桜田刑事は正義を貫き通す   第三話 処分

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  • 桜田刑事は正義を貫き通す   第二話 封筒

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